Visions session vol.3 森田尚人さん 講演レポート(後編)
1年目、お客様が気づかせてくれた。
面接を重ねて、自分が未来にやりたいことを考えまくるのが就職活動の時期だと思いますが、なんとなく僕はずっと海外への憧れがありました。海外で仕事をしたり、人に興味があるので、海外の人の文化や価値観をたくさん取り入れて、人間としての幅を出したいなと思っていて。ただ、サッカーもあって結局留学はできなかったので、将来海外で働いてみたりしたいな、と漠然と思っていました。それとPlan・Do・Seeの「日本のおもてなしを世界中の人々へ」というミッションがシンクロして、「言語も文化も違う世界をステージに、レストランやホテルを運営・マネージメントできる人材になりたい」というのが、就職活動をしながら見つけた僕の志でした。
すぐにそれができるとは思っていなかったので、まずは文化も一緒、会社として方向性もある程度一緒の社員をまとめられる人材、現場でトップレベルのプレーヤーになることが第一歩だ、と考えました。そこで、Plan・Do・SeeのレストランでNo.1のサービスマンに1年でなろう!という目標を掲げました。
自分が一生懸命ゲストのために勉強して、ゲストに向き合った結果、逆に自分がうれしい気持ちにさせてもらっている。そのありがたさに気づけたことは、レストランやホテルを「人生が豊かになる仕事だ」と思うきっかけにもなりました。僕、人が人生を豊かにしてくれると思っていて。いろんな人生に関わることで、自分の人生に勝手に彩りが加わって豊かになるな、と。そう考えると、レストランっていろんな場所からいろんなニーズで来た人が、たまたま自分の担当テーブルに座って、聞いてみたら特別な記念日だったり、普通の食事だったり、いろんな価値観を持った人と話せてつながれる、そんな場所だなと思ったんです。
例えば、1年目にレストランで担当してすごく仲良くなったお客様がいて、その人たちは結婚式もそこで挙げる予定だったのですが、「森田くんに当日のサービスに入って欲しい」と言われたんです。うわ、めっちゃ入りたい!と思ったのですが、その日社内イベントがあるので、すみませんとお伝えました。ただ、時間を調整したら出られそうな時間帯だったので、当日サプライズで登場して披露宴中も横でサービスし、最後にお写真も撮らせていただいて。素晴らしい1日になりました。
そのお2人とはずっとつながっていて、その年お店に年賀状を送ってくれたり、子どもができて臨月の時にも来てくれたり、生まれた後子どもを抱かせに来てくれて写真を撮ったり、その子の名前がついたお酒を一緒に飲んだり。僕がなんでこんなにやってもらっているんだろう?って。僕がお客様を楽しませたいと思って、ウワーッと一生懸命やった結果、温かい気持ちにさせてもらっている瞬間を経験して、こんな仕事あるんだな、と思いました。
そうやって、生きててよかったな、ありがたいな、とあったかくなる経験をいろんな人ができたら、すごく幸せな人が増えるのにな、と思っていました。一方で、この仕事はサービス業なので、いろんな人の固定概念で「ブラック企業だよね」「休みが少ないよね」「長時間労働だよね」という色眼鏡がかかっています。社会人になってまでサービス業します?みたいな価値観ってめちゃくちゃ世の中にあるな、もったいないなと感じていて、それを変えたいとも思っています。
1年目で東海エリアの年間MVPに選ばれ、翌年東京に異動になりました。がむしゃらに、人生で一番働きましたね(笑)。当時1日1500人お客様が来るレストランで、まさに”ブラックな”働き方をした1年間で。オープン翌年だったのですが、Plan・Do・Seeが初めて手がけた大箱のレストランだったので、勝手がわからないんです。お客様が途絶えない、来すぎて困るくらい。これは確かに辛いな、誰も働きたいと思わないな、と感じました。
そこで辞めなかったことが大事で、僕が自分で選んだ会社で、変えようと思って目標を達成するためにここにいると思うと、「目の当たりにした現実を変えられたら、世の中を変えられる可能性があるな」と思って。当時の先輩に、「これを仕事だと思ったら辛いし、辞めたほうがいい。ただ、長期的にお前の成し遂げたいことを考えたときに、これを人生だと思ってどうアクションするかで未来が変わるから、やってみろ」と言われ、確かにそうだなと思ってがむしゃらに働きました。
4年目、マネージャーになって気づいたこと。
東京で1年半くらい働いた後、3年目終わりに京都でレストラン責任者を任せていただきました。それが26歳の時で、おもてなしGPというサービスマンのコンペでも優勝しました。その年にダイニングマネージャーになり、やっと「この業界を良くしたい、素晴らしい職業であることを広めたい」ということに取り組めるようになりました。どうやったらこの業界が働きやすくて、休みが取れて、給料高くてみんなが働きたくなるのか。営業日数を減らしてみたり、時間を短縮してみたり、採用の幅をぐっと広げてみたりというのを、4年目から6年目、去年の12月まで、僕の意思決定で色々やってきました。
その中で、レストランという事業で働きがいを向上させるということが、僕以上にたくさんの先人たちが考えてきたことであり、同時にすごく難しくて、課題があることに気づきました。また、Plan・Do・Seeが上手くビジネスモデルを組めているからこそ、レストランを運営できていることにも気づきました。そして、レストランやホテルという業態を、多くの人が働きたいと感じるビジネスモデルにしたい、とより強く感じているのが今です。
レストラン・ホテル業界を変えるなら、他のうまくいっている会社から何かヒントをもらって、ビジネスに変革を起こさないといけないと思っています。なので、今年1月からは人事という立ち位置で、いろんな人に触れて情報をキャッチアップしたいという想いを、仕事と絡めながら取り組んでいく期間にしたいと思っています。もともと現場が大好きなので、「なんで俺は現場離れているんだろう、おもてなし1位の人を抜くなんて何を考えているんだろう」と萎えたり、夢が遠のくんじゃないかとも考えました。
ただ、今は「結果、何も無駄になるものはない」という捉え方の方がハッピーだなと。人事という立ち位置で、まず人に関してプロフェッショナルになるのが、自分の未来が開けるポイントなんじゃないかなと思っています。プロレベルの人と対等に話せるぐらい人のプロになること。それが遠回りに見えても、実は近道じゃん!となるのも僕自身のことなので。それを信じて、今は目の前にある会社にやってほしいと言われていることをやりながら、最大限自分の能力を伸ばすこと。5年後に振り返った時に、あの人事の時間があったからこれだけガッと伸びたね、と思えるように過ごそうと思っています。
サービス業だから、できること。
人が人のために何かをして差し上げる、おもてなしという文化、かつ、ありがとうという言葉が交わされることって、至ってシンプルだけど人間が生き生きと生きていく上で一番必要なんじゃないかなと考えています。ありがとうって単純にうれしいじゃん、って。だって世の中、どの会社さんも人の生活を良くする、豊かにすることでしか成立していない。人が喜ぶことでないと、会社は成立しないので。そう考えた時、必要な会社はたくさんありますが、直接人と人で何かをやって「ありがとう」と言われる職種はあまりないんじゃないかと思っています。
例えば、水道の蛇口をひねって水が出ても、あまり「ありがたい」とは思わないですよね。断水したらそのありがたみがわかるけど、それが改善した時に水道の人にお礼を言うことはできない。一方、水道の人は普段おそらくパソコンに向かって仕事をしている。それは絶対必要な存在だけど、ちゃんと志を持ってパソコンに向き合っていないと「あれ、なんで俺これやっているのかな?」と、人間の弱さとして思ってしまう瞬間が絶対あると思うんです。そこで、「仕事だし、給料もらってるしやるか」と思ってしまうと、生き生きと豊かに過ごしていない時間が出来てしまうんじゃないかな、というのが就活をする中で行き着いた答えで。
だったら、僕は何かをして差し上げることで「ありがとう」と言われて、僕も幸せで、心が豊かで生き生きと過ごせる人生がいいな、と。そう思ったことがPlan・Do・Seeに入った理由でもあります。それに、そういった職業にたくさんの人が触れ合うことが、世の中を良くすることだったり、たくさんの人が幸せになることだな、という僕がやりたいことにも直結していて、そんなことを考えています。
君は、どの頂を目指す?
これから就活で企業比較をする中で、ミッションやビジョンを見てほしいなと思っています。
僕らの山の頂に「日本のおもてなしを世界中の人々へ」というのがあるとしたら、今はその山を登っている途中です。登り方として、レストラン事業・ブライダル事業・ホテル事業という3本の道がありますが、山の登り方って、他にもありますよね。僕たちはこの3つを26年間やってきたから、今はその道が太くなっているけれど、物販、アパレル、コンサルという別の道もやっています。
そうすると、この先例えばブライダルというメインの道が切り捨てられる瞬間もあるかもしれません。5年前によかった商品が、今はよくないこともある。その時、「私はブライダルという道を歩きたかったのに」と路頭に迷うのはアンハッピーだなと思っています。「この道はなくなってしまったけれど、私はこの山を登りたかったのだから、違う道にも行ってみよう」と方向転換できるような企業、目標。自分の人生を使って、この山に登ってみようと思える会社に出会えることが、人生において大事だなと思います。
商品はあくまで手段なので、どんどん変わります。その会社は何をしたいのか、というミッションに一番共感、ワクワクしたり、自分の人生を使ってやりたいと思えるなら、「自分なんでやってるんだろう」と思ったときに立ち帰れます。そういう人は自分のやっていることの意味がわかるので、やることがパソコンでもなんでも全然大丈夫だと思います。
会社は世の中をより豊かにするためにある組織です。誰かを苦しめようと思い立って会社が起ち上がることはないことは誰もが知っている。けれど、居酒屋に行くと愚痴が聞こえてきたり、仕事を辞めたいという人を見たりする。
人のためになることをしている会社に属しているにも関わらず、自分の存在意義を見出せていなかったり、会社の存在価値を理解せずに働いている人が多いと思うことがあります。会社の存在価値、というのが大事ですね。
僕は、レストラン・ホテル・サービスという事業が素晴らしい仕事であることを、事業内容だけでなく収益性も含め証明していくことによって、より多くの人が生き生きと働いている世の中にしていきたい。その先に、僕たちPlan・Do・Seeが「目指す世界1のホテルマネジメント会社」という夢も実現できるんじゃないかな、と思っています。
目の前のことにまっすぐ取り組むことが、成長の可能性を広げる。
―向き合う力、コミットが強いなと感じました。何故そこまで向き合えたのでしょうか?
サービスのグランプリも、実は2年目から決勝に出ても負けていて、4年目でやっと優勝。だから、全然やられています(笑)。でも、「達成しないとその先にある夢が実現できない」と自分でおいて、絶対何が何でもやりきると決めていたから、ずっと手を緩めませんでした。
それに、周りから期待されたり、未来をこういう風にしたいと自分が言ったり、いろんな「こういう自分になりたいな」という理想をずっと持っているんです。その人になるためにはどういう行動をしないといけないか?というのを、結構考えます。めっちゃ寝てしまって、ぐうたら過ごして情けないと思う日もありますが、それをできるだけ少なくするというのは大事かなと思います。予定をいっぱい組み込む、とかは一つの手段ですね。
「この自分になりたいから、何をしないといけないか」ということをノートに書いたりもします。それに、うちの会社は目標制度が素晴らしく整っているんです。半年に一回直属の上司と相談して、自分が半年後どうなっていたいか、どんなことにチャレンジしたいかというのを、MUST:会社がやってほしい期待、WANT:自分がやりたいこと、CAN:自分ができること、というバランスで見て、目標設定をしています。
WANTを明確に持つことで、じゃあ何ができるようになる必要があるの?というのが出てきますよね。じゃあそこに一つひとつ向き合って、やるしかない。それをやっていないと、半年後に「じゃあなんでやっていないの?」となる。全然出来ていないメンバーもいるし、全部はできなかったけどこれだけはコミットしました、という人もいて。
人が半年間でコミットできることは結局1、2つなので、選択と集中でやっていく。僕の場合はレストランに行きまくる!とか、サービスを突き詰める!ということをガーッとやっていました。名古屋にいた1年目も、東京にいたときも、自己投資として休みの日にはレストランに行きまくっていました。冬休みにもNYに一人で行って、向こうでもPlan・Do・Seeのお店で働きながら、1週間で50万くらい使いました。英語も付随してやっていたけれど、サービスを突き詰め切ったから、そこで広がったという感じがあります。
また、成長の仕方として、Tの字で成長した方がいいと言われています。みなさん知識がたくさんあって、情報もたくさん入るじゃないですか。こんなことできるかも、やりたい、という理想はたくさんある方がいいと思いますが、それを持ったままでは全然うだつが上がらない。Tの字のように、下から一点集中で伸びた先に、可能性が広がっていると考えて、1つのことにちゃんとコミットして、ちゃんとやりきる、その先にいろんなやりたいことを実現させていく、という成長が、うちの会社ではいいよねと言われています。
1年目の人で、WANTとMUSTがずれて現実と未来が結びつかない人もたくさんいます。その人には、会社はやらせたくないわけではなく、今やってほしいこと・今できることはWANTと違うから、今自分ができることを最大限やり切った先にWANTに向き合ってほしいんだよ、と伝えています。本当に一つひとつ積み重ねていって、未来を近づけるしかない。小さなことから自分に打ち勝って、生活の習慣を変えていくと、未来につながっていくのかなという感覚は伝えたいです。
最終的にWANTを叶えている人は、手前でMASTとCANをやっていますし、MUSTとCANをやっているうちに、自分の想像を超えたWANTに出会ったりもします。こんなこともやりたかったんだ!とか、こんなこともできるかも!というのが、近未来どんどん大きくなっていくので、それを一つひとつやっていくと、また面白い人生になるかなと思います。
〜おわり〜
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