「オッサン社会」をどう生き抜くか? これからのキャリア論

ビジョンズラウンジは、1月8日にコーンフェリーヘイグループのシニアクライアント・パートナー山口周氏をお呼びして学生向けに講演会を開催しました。第一部は、「これからのキャリア論」。第二部は、「世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?」。今回は、当日のログを2回に分けて公開します。

 

これからのキャリア論

大学時代は、文学部で美術と音楽の研究をしていました。そのころから、世の中の予測や周りが良いと思うものは直感的に信じていませんでした。だから、就職に有利か不利かは気にせずに、自分がやりたい勉強が出来るか出来ないかで選択をしました。その当時、文学部で美術と哲学を学び、作曲の勉強を子供の頃からしていて音楽を作りたかったので、助っ人でピアノ奏者をしたりしていました。

世の中は常に状況は変わっていく

僕が大学を卒業したときは、バブル絶頂期でした。体育会系に入っていたり有名サークルに入っていれば引く手数多の時代でした。その瞬間その瞬間で言われていることは、過去10年間の影響を受けて言っています。僕の時代は、経済学部が良いとか体育会が良いと言われていたんですが、バブルの崩壊を機に関係なくなったんです。文学部はもちろん就職先が無くて、劇団員になることを考えたこともありました。当時の私は、給料が高くて美術や音楽に関わることの出来る会社があるということで、電通に入りました(笑)。

 

問題社員だった電通時代

自他ともに認める問題社員だったんです(笑)。営業に配属されたのですが、見積もりは間違えるし、FAXは違うところに送ってしまうし、言われた締切はすぐに忘れてしまうんです(笑)。給料が高いという理由だけで仕事をしているのは馬鹿らしいと思い、30歳でネットベンチャーに転職しました。そこでは、金持ちになりたいというエネルギーが足りないと痛感しました。また、知的に楽しくないし仲間になれる感じがしませんでした。そこで、32歳で外資系戦略コンサルの世界に入りました。仕事はめちゃめちゃ面白くて、日曜日の夜に徹夜した次の日の朝のMTGが楽しみ!といった感じでした(笑)。ただ、40代になったら自分だけの領域を作りたいと思っていました。そんなときに、「人と組織の専門でやるコンサルティング会社って面白いな」と思い、今の会社に42歳で移ってきました。大体7年ぐらいで飽きるので、次は何をしようか考えています(笑)。

 

成功モデルの書き換わりが進んでいる

これから皆さんにお話ししたいのは、成功モデルの書き換えが進んでいるという話です。キャリアを考えるときに、だいたい10年くらい続いているトレンドから勝ちパターンを想定している人が多いです。どういう人が活躍するかどういう職業が儲かるかというのは、正直わかりません。10年間ぐらいは一定の効力を持ちますが、10年後にはもうガラッと変わっていると思っていいでしょう。

今世界で何が起こっているかと言うと、例えば、一昔前までMBAは出世のファーストチケットのように言われてきましたが、アメリカのMBA出願率は4年連続で前年割れしているんです。明らかに学位としては旬を過ぎています。今活躍している50代のエグゼクティブ達は、スタンフォード等のビジネススクールを出ていると言われてますが、大体20年前に取っているんです。20年前と言えば、まだまだMBA取得者も少ないので本当に貴重な存在でした。今から彼らを追いかけるとなると、20年の後追いなるんです。これはよくよく考えた方がよくて、私が学生の頃にやっていたことや30代でやっていたこととかって、10年〜20年も前の話になるってことですから、単純に私がこんなことをしてきたとかこれを勉強したほうがよかったっていうのは、あんまり信じる必要は無いんです。

あとスタンフォードでもSTEMの学位がキャリアを保証してくれると言われていましたが、STEM型の学位の給料はどんどん下がっているんです。明らかに供給過剰なんですよね。どちらかと言うと、哲学や文学といった学位を持っている人の方が初任給が高くなってきているんです。皆さんの友達でも大きな都銀を目指している人がいるかもしれませんが、僕の世代は就職活動の勝ち組は、マスコミ/商社/金融だったんですね。まだ外資系に行く人はほとんどいなかった。大手の都銀に行く人は商社と並んでキャンパスで偉そうな顔をしていた。皆さんご存知のようにみずほ銀行さんは、今20,000人規模で人員削減をしています。都銀と支店は近い将来なくなると思っています。大卒で銀行に入った人のキャリアの上がりっていうのは支店長ですから。支店がなくなると言う事は、大量の20年前の世代の人たちがあぶれるんですよね。

2006年のビジネススクールのトップスクールの卒業生の名簿を見ると、卒業生の3分の1 が投資銀行に行っています。みんな初任給のボーナスが3000万円だ、4000万円だと言ってたんですけれども。今、ゴールドマン・サックスのトレーディング部門は600人から何人になったでしょうか?3人になったんです。何が起こったかと言うと、すべて人工知能に切り替わっていったというのが大きな理由です。

問題を作れる人に大きな価値がある

問題解決がすごく得意な人がもてはやされた時代がありました。だからこそ偏差値の高い大学を卒業していたり外資系戦略コンサルティングファームに行っている人に高い価値がついたんです。その頃は、問題がすごく沢山あって解決できる人が少なかった時代だからですね。経済学の基本は、沢山あるものには価値がつかないということです。昔は問題がたくさんあったんですよ。冷蔵庫で保存できなかったり、快適に車で移動できなかったりしたので、解決できるモノを提案できる人に高い価値がつきました。今、こういった不満や不便というものは世の中から殆どなくなりました。ですから、昔は問題を解ける人が少なかったで、解ける人にすごく高い価値がついたんですが、今は問題が少なくなってきちゃって解ける人の数が余っている。人が余っている状態の中で、人工知能が出て来ちゃったので問題解決をするっていう人にあまり価値がつかなくなってきました。そのかわりに、これからは何が必要になってくるかというと、問題を作れるって言う人に大きな価値が生まれる時代になってくるんじゃないかなと思っています。

アイスホッケーの神様にウェイングレツキーという人がいます。ウェイングレツキーは、アイスホッケーのパックを取るのがすごく上手かったんです。「なんでそんなにパックを取るのが上手なんですか?」と聞かれたときに、「他のアイスホッケーのプレイヤー達は、アイスホッケーのパックが”今”ある場所に走り込んでいます。自分は”未来”のバックのある位置に走り込んでいるからすんなり取れるんですよ。」と言ったんです。これは非常に名言で、世の中で”今”活躍している人を見て努力をするのと、”未来”を見て努力をするのとでは全然違うと思います。20年後には活躍している人がガラッと変わることを意識する必要があるでしょう。

 

一所懸命という言葉

僕は打席の数がすごく大事だと思っています。世の中にどういう仕事が価値があるかって10年ごとに変わっていきます。これは、いくら予測してもわかりません。じゃあどうすればいいのか。これはとてもシンプルで、いろいろ試してみたらいいと思います。皆さんはエリートなので失敗をすごく恐れるんです。なるべく若い時に、いろいろ試して自分に向いてないことを見つけるって大事だと思うんですよね。ファイナンスの理論でいうと、ある会社を買収するとか事業を始める時に、ネットプレゼントバリュー(NPV)と言う考え方をして、将来にわたって生み出す利益と発生する損失を差し引きして、その事業の価値を算出するんです。皆さんにとっての失敗とかトライアンドエラーを起こす価値は、若ければ若いときほどネットプレゼントバリューは大きいんです。ところがですね、みんな失敗を恐れるんですね。結局やってみないとわからないはずなんですが。

今日皆さんに持ち帰ってもらいたいと思っている言葉は『一所懸命』という言葉です。一つの所で懸命に働くというポジティブな一面のある言葉なんです。しかし、僕はあの言葉は人を見誤らせる言葉だなぁと思ってます。せいぜい2.3年やって、「これは難しいなぁ」「この領域では自分が勝てないなぁ」と思ったらどんどん別の場所に移って良いんじゃないかなと思ってます。僕は結局電通に7年いましたが、もっと早く移ったほうが良かったなぁというふうに思っています。

 

アイデンティティの幻想

自分がこういうものだっていうのは案外捉えられないものだと思っています。僕の場合は、自己評価でこれが得意だとか、これが出来ると思ったものはまず間違いなく間違いだと思っています。まず間違いなく間違ってるので、自分に基づいて自分の出来ることを決めてしまうとうまくいかない。他の人が評価してくれる、世の中が感謝してくれることをどんどん作っていく。それが見つかるまでは地道になんでも努力するということが大事だなと思っています。

 

大事なのは基本原則

嫌な仕事があったとしても、仕事が嫌いと言い続けていると漂流することにもなりかねません。そんなときは、人生における基本原則というものは決めておいて良いんじゃないかと思っています。僕の場合は、仕事は自分がこの人とやりたいという人としかやらないように決めています。もう一つは自分の健康状態を維持できるっていうのをすごく大切にしています。最後の一つは知的に刺激されて夢中になれることが仕事にあるかどうかという3つの条件のうちの2つが維持できている状態じゃないと、基本的には会社を移るという選択を取っています。短期的に見ると部署が合っている合ってないの問題もあるかもしれないですが、中長期的に見て何か違うと思った場合は移っていいと思います。また、健康維持ってすごく大事です。50代になると半数以上の人が健康不良で勝手に墜落していきます。僕は電通に入ったときの謝恩会で、役員の人に「どうやったら役員になれますか?」と言ったんですね、そしたら1番大事なものは健康だって言われたんです。特に僕の働いていた会社は不摂生な人が多かったので勝手に崩れていくんですよね。当時はあまりわからなかったのですが、今になってよくわかります。当時の友人も健康問題で第一線から外れていっています。なぜこういうことを言っているかというと、皆さんの世代はまず間違いなく80代まで働くことになると思います。100年人生になって、70歳〜80歳まで働くとなると、健康問題で50歳で引退する人と70歳ごろまで楽しく働ける人では人生の豊かさが変わってくると思います。

 

成功するために意識すべきことって何?

世の中の成功するビジネスマンはどうやって成功するのか、を調べた人がいるのですが、成功した人たちが若い時からどういう計画を持って今のポジションに行き着いたかっていうのを調べたんです。すると、85%の人が今のポジションに就くとは20代の頃は全く感じていなかったらしいんです。偶然に偶然が重なってそのポジションになった。中長期的にゴールを決めて、いろいろ努力をするっていうのは経営戦略としてはあると思うんですけれども、キャリア論としては机上の空論になっちゃうんですね。じゃあ、何から始めるべきかと言うと、その瞬間その瞬間を楽しむっていうことでしか身にならないので、世の中で良いと言われてる本じゃなくて自分が面白いと思うもの。仕事だったら面白いと思う仕事をやると、後で来たチャンスとかにどう生かせるかを考えられると思うんですね。僕は大学で美術をやっていて、音楽や美術の仕事できると思って電通に行ったら営業になっちゃったので、そこからどんどんどんどん離れて戦略コンサルタントの仕事とかをしていたんですけれども結果的にはぐるっと回って今は組織開発に行き着いて、僕の業界の立ち位置みたいなものができて新しい仕事をできるという状況にあるんですけれども、僕が20代の頃は今のようになるとは全く想像していませんでした。音楽や美術に関わる仕事をやっていると思っていました。そして安定した生活を送れていたらいいなと思っていました。今のような状況になるとは、全く想像していませんでしたね。

 

第二部「世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?」は、2月中旬に公開します。

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